2018.11.25 Sun
#Kyoto
ホテルシーンのゲームチェンジャー、龍崎翔子。22歳の瞳に映るフォアサイト
耳に残るフレーズでおなじみの老舗お茶ブランド<かおりちゃん>と、京綿菓子店『ジェレミーアンドジェマイマ』によるお茶×コットンキャンディの専門店が京都・東山にオープンした。そんな話題のスポットのアートディレクション&コピーライティングを手がけたのは、弱冠23歳のホテルプロデューサー・龍崎翔子。『HOTEL SHE, OSAKA』や外に着ていけるパジャマの制作、積ん読解消パックなど、数々のヒットコンテンツを生み出してきた彼女のクリエイションの源泉、そして見据える未来について話を伺った。
Photo / Mami Nakashima(Tryout)
Text / Shun Koda(Tryout)
左脳6割、右脳4割。
ロジックかつ感情を動かせる
アイデアが大切。
―早速ですが、今回プロジェクトの<かおりちゃん>は知っていましたか?
「全く知りませんでした(笑)。最初に相談があった時も『かおりちゃんって誰ですか?』という感じでしたし、昔のCMを見せていただいてもピンと来なかったくらい」
―真っ新な状態でのスタートだったとは思いませんでした。
「そうですね、でもそこまで苦労したっていうわけでもないですね。今回のターゲットは、かおりちゃんを知っている世代と知らない世代。まずは<かおりちゃん>を知っている世代にどこまで自分が感情移入できるかがキーになると思ったので、とにかくヒアリングを繰り返しました。そうしていくうちにほっこりとした懐かしさと同時に、あの頃には戻れないという切なさを<かおりちゃん>に感じるんだなってことに気づいて。ない交ぜになったエモさをアートワークやキャッチコピーで表現できたらなと思いました」
―ビジネスシーンで”エモい”のワードが出てくるのが新鮮ですね。アイデアを生み出す時に、感情も大切にされているんですか?
「機能性は追求するけど、心を動かすことまで考えて設計している人は少ないような気がしていて。でも人間ってそこまで合理的ではないじゃないですか。何かを選択するときもその時の気分とか、心が占める割合が多いと思っています。でも感情ばかりを優先すると、アイデアとしては弱くなってしまう。だから左脳6割、右脳4割。ロジカルに考えつつ、感情を動かせるアイデアを常に模索しています」
抹茶やほうじ茶の和やかなフレーバーがするグミ各500円(税込)、綿菓子各600円(税込)。
紅茶やラテはもちろん、渋めに抽出したお茶とも好相性
➔TEA & COTTON CANDY STAND 店舗情報
―今回は、ホテルプロデュース業と通ずる部分がありましたか?
「基本的なロジックはホテルと似ていますね。私の手がけたホテルやプロジェクトはよく若い世代向けと言われるんですけど、私自身はそこまで若年層を意識してないんです。ただ、そう言われる理由はユーザーが発信しやすい仕掛けを意図的に作っているからだと思っていて。ホテル側が情報を発信してもいいんですが、それじゃどうしても拡散性に限りがあるんです。理想的なのは宿泊客に自ら発信してもらうこと。そのためにはユーザーが発信しやすいようなコンテンツをしっかり提供しようと思っています。『HOTEL SHE, OSAKA』の場合は、外壁にロゴを入れてフォトスポットとして使えるようにしたり、誰が話してもどんなホテルかを簡単に説明できるようにレコードを置いたりしています。写メを見せながら、『ここってレコードがいっぱいあるんだよね』って言えば、どんなホテルか伝わるじゃないですか。そういった仕掛けづくりは、今回のカフェでも同じですね。コットンキャンディ自体がすでにデザインされていたので、あえてあまり手を加えていなくて。商店街で撮影を行い、エッセンスとしてノスタルジックさを意識しました」
―なるほど。一方でコピーライティングに関してもスムーズに行えましたか?
「んー、どうなんでしょう、偉そうなこと言えないからな~(笑)。やっていくうちに思ったのは、コピーライトもプロジェクトと同じでインサイト(消費者の視点)が重要だなってこと。浮彫りになった課題に対して、どうアプローチして解決策を出すかを提案するということですね。今回であれば、<かおりちゃん>を知っている人と知らない人の両方に響いてもらうことが課題。それを解決するキーワードが“ノスタルジック”で、ターゲットを絞れたことは大きかったですね。スムーズにアイデアを出せるようになったのもホテルプロデュースのおかげかもしれませんね」
手書きのコピーライトやアートディレクションの他、モデル選びも龍崎さんが担当。「大きい口と憂いを帯びた表情がぴったりでした。撮影当日は大雨だったので、綿菓子がしぼみまくって大変だった」と“笑撃”のエピソードも
他業界の手法を取り入れて、
ホテル業界に新風を起こす。
―ホテル経営に加え、プロデュース業で多忙を極める龍崎さんにとって落ち着ける場所はありますか?
「屋外で食事する時は幸せですね。セロトニン不足なのかな(笑)」
―屋外ですか?
「屋内よりオープンエアが居心地いい。というのも、鎌倉のビーチハウス『PLAGE YUIGAHAMA』のプロデュースをした時に改めて思ったんですけど、クルマの自動運転システムが普及していけば、今みたいな駅チカがあまり価値を持たなくなるなって。そうなった時、ロケーションのいい場所は強みになるだろうと思います」
―常に課題を探すためにアンテナを張っているんですね。問題を見つけるコツのようなものはあるんですか?
「自分の感情を観察するようにしています。『こういうのあったらいいな』や『なんで自分は不便に感じるんだろう?』といったことを常に自問自答してるんです。それとTwitterをマーケティングツールとして活用しています。私自身はTwitterユーザーのことをレスポンスが早くて、本音を言うわがままな存在だと思っていて(笑)。決してネガティブな意味じゃなく、何かアイデアがあった時にそれに対するレスポンスがスピーディかつ正確で、誰かのインサイトを示していることが多いので優秀なんですよ」
―確かに多数のユーザーの意見を聞くには、これ以上ないツールですよね。そうやって浮彫りになった課題を解決するうえで、大事にされていることはありますか?
「自分の中で一番辛いのは、あれもしたい、これもしたいと目的を見失ってしまうこと。今まで上手くいったプロジェクトを思い返してみると、複数の課題を解決しているものが当たるなって気づいて。顧客、経営者、メディア、業界全体といったすべてが持つ課題を一気に解決するアイデアは、誰にとっても価値が高いし何より強固なんですよね。でも、それを思い付くのがかなり大変ですね。問題意識を常に持ってアンテナを張ること、いろんな課題を串刺しできるアイデアを探し続けること、その二つは大事にしています」
―四方よしですね。Twitterだけでなく、身近な人に意見を聞くこともありますか?
「他人の意見は積極的に聞く方だと思います。ブレストもよくやりますね。私自身は合議制(多数決)より一人ひとりとの対話を通して決めたいんです。合議制を否定するわけじゃないですが、私たちの場合だとなぜか上手くいかないんですよね」
―社内スタッフはホテル業界出身の方も多いんですか?
「ホテル業界の出身者はゼロなんですよ。他業界で当たり前のように行われている手法を取り入れることで、ホテル業界に新たな価値を生み出せると思っているので。例えば、『HOTEL SHE, OSAKA』のリリースで、モデルさんを起用してスタイリング撮影を行ったんです。アパレルの業界であれば当たり前だけど、ホテルでやると新鮮ですよね」
ホテル業界を根底から覆すような
プラットフォームをつくっている最中。
でもこれはまだ布石なんです。
ここからは、かおりちゃんプロジェクトでも協働している、京都にある“泊まれる雑誌”がコンセプトのホテル『マガザンキョウト』の岩崎達也編集長をゲストに招き、共同で経営される新会社『Chill‘nn』について伺いました。
―お二人は以前から親交があるんでしょうか?
岩崎「そうですね、共通の知人であるフリーライターの塩谷舞さんから紹介してもらってお会いしたのが最初です」
―以前からお互いの存在は知っていたんでしょうか?
龍崎「クラウドファンディングで『マガザンキョウト』の資金を調達している頃から注目してました。こんな面白いことを考える人がいるんだって」
岩崎「僕も知ってましたよ。すごい女の子がいるもんだな、しかもかわいいいなって(笑)。数年前から知っていたけど、実際にお会いしたのは去年くらいなんですよ」
―かなり最近なんですね。いわば業界の異端児ともいえるお二人が、泊博や唐津のホテル開発など、協力し合えているのは何か理由があるんですか?
龍崎「初めてお会いした時に、お互いのホテル感みたいなことを語り合って、すごく共感できたんです。それが大きいと思いますね」
岩崎「確かに。その時すでにこんなプロジェクトができるんじゃないかってアイデアがポンポンと浮かびましたね。価値観が似ているというか、龍崎さんのカッコいいやかわいいというものは、素直にいいと思えるんですよね。“いいっすよね”を原動力に、どんどん進んでいくスピード感は龍崎さんとだからなんだろうなって思います」
龍崎「嬉しいですね。ひとつのキーワードを投げかけて想像するものが一致しているのは、ありがたいですね」
「同世代の感情や気分を言語化する能力に長けている」と彼女に絶大な信頼を置く岩崎さん。
その一方で、彼女も「常に物事の本質を捉える姿勢に憧れます」とリスペクトを送る
マガザンキョウト
―新会社の『Chill‘nn』はどのようなことを行っていくのでしょうか?
龍崎「ホテルは基本的に予約サイトを経由して、お客様とつながることが多いんですが、サイトの手数料はかなり高いんです。それに加えて予約サイトだと他のホテルと比較する基準が、価格や駅から徒歩何分、部屋数だったりすると思うんです。だけど、最近のホテルはそこで勝負してないところも多い。それぞれのホテルのカラーをしっかりと伝えれることができれば、ゲストにとっても宿泊だけじゃない付加価値も得られるじゃないですか。ホテル業界が長年抱えてきた問題を根底から覆すようなプラットホームをつくろうとしている最中ですね」
岩崎「ホテルの魅力をダイレクトに届けられるのは現場なんですが、オンライン上でも工夫次第ではしっかり伝えられるんじゃないか、がスタートでしたよね」
龍崎「そうですね。まだ見せられるようなものじゃないですけど。今まで誰もやろうとしなかったことにチャレンジしていくので、珍しく慎重になっています(笑)。でも、これも布石。あくまでも山ほどあるやりたいことのスタート地点ですね」
龍崎 翔子
L&G GLOBAL BUISNESS, Inc.代表 / ホテルプロデューサー
小学2年生の頃に訪れたアメリカでホテル王を目指し、東京大学在学中の19歳で『L&G GLOBAL BUISNESS, Inc.』を起業。現在では、富良野や大阪、京都に湯河原など、5つのホテルを経営する傍ら、ホテル内外のプロデュース業も行う。
www.lngglobiz.com
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